春日級装甲巡洋艦 (日本海軍, 1902)
春日級装甲巡洋艦(かすがきゅうそうこうじゅんようかん Kasuga class armored cruisers)
概説
日露戦争を間近に控えた明治36年末、戦力の急速増強のために海外で建造中の中立国艦船の買収が図られた。最初に俎上に上がったのは、チリ海軍向けに英国アームストロング社で建造中であったコンスティトゥシオン Constitucion およびリベルター Libertad であったが交渉がまとまらなかった。この両艦は、ロシアに渡るのを防ぐため同盟国英国が購入して英戦艦スイフトシュア Swiftsure およびトライアンフ Triumph となった。ついで着目されたのが、アルゼンチン海軍向けにイタリアはジェノバのアンサルド社で建造中の装甲巡洋艦リバダビア Rivadavia およびマリアノ・モレノ Mariano Moreno である。こちらの交渉は首尾よくまとまり、それぞれ春日、日進と名を改めて翌明治37年早々に引き渡され、開戦直後の2月16日に横須賀に到着した。イタリア式の設計はそれまでの日本海軍では例がなく、異彩をはなっていた。ことにいわゆる山型船型といわれる、中央に一本檣、その前後に煙突という形態は特徴的であった。主砲は前後に20センチ砲連装砲塔を装備していたが、日進はうち1基をより強力な25センチ単装砲塔に変更していた。春日級の特徴は大仰角の主砲で、射程距離は戦艦に匹敵した。残念ながら、具体的にどれくらいの最大仰角だったかは手元の資料にない。日本の聯合艦隊は戦艦6隻、装甲巡洋艦6隻を基幹とする6・6艦隊だったが、5月に機雷のため戦艦2隻を一挙に失うという事態に立ち至った。この事件は日本海軍にとって相当の大打撃であり、戦略構想を覆しかねない状況だったが、ここで春日級の大仰角主砲が役立つことになる。春日、日進の両艦はその戦艦に匹敵する射程距離を持つ主砲のために、戦艦と同一行動をとることが充分可能であり、そのために戦艦の戦力発揮を阻害することはない。かくして春日と日進は失われた戦艦2隻の穴を埋めるかたちで第一戦隊に配属され、6・6艦隊を維持することができた。8月10日の黄海海戦では逃亡を図るロシア艦隊に対し大遠距離から砲弾を浴びせて逸走を阻止し、また明治38年5月27日の日本海海戦では戦艦部隊の一員として決戦に臨んだ。春日と日進は上述の通り日露戦争において少なからぬ戦功を立てたが、戦後まもなく第一線を退いた。イギリス式が主流を占める日本海軍で、イタリア式の両艦は使いづらかったのだろう。そのためか、両艦は海外派遣などによく用いられた。特に第一次大戦では、春日はマニラやカナダ、シンガポールなどに派遣され、日進に至ってはドイツ潜水艦に対抗するため地中海に派遣された駆逐艦群である第二特務艦隊を率いて欧州海域にまで足をのばしている。日進は昭和10年除籍され、標的として処分された。春日は長らく運用術練習艦(のち航海学校練習艦)として使用されたが、大戦末期に横須賀で爆撃を受け着底した。
主要要目
排水量: | 常備 7628t (日進 7698t) |
長さ: | 水線長 108.8m, 全長 111.73m |
全幅: | 18.9m |
喫水: | 7.32m |
機関: | 2軸 直立式3気筒三段膨張レシプロ 2基, 円缶 8基 (石炭専焼), 13,500ihp |
速力: | 20ノット |
装甲: | 水線帯 70-150mm, 甲板 25-38mm, バーベット 100-150mm, 砲郭 150mm, 司令塔 150mm |
兵装: | 25cm砲 1門 (春日のみ), 20cm砲 4門 (春日 2門), 15.2cm砲 単装14基 14門, 8cm砲 単装10基 10門, 47mm砲 6門, マキシム機関銃 2挺, 45cm魚雷発射管 4門 |
乗員: | 600 |
一覧
計画 | 艦名 | 建造所 | 起工 | 進水 | 就役 | 艦歴 | 記事 |
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日露臨 | 春日 Kasuga | 伊 Ansaldo | 1902.03.10 | 1902.10.22 | 1904.01.07 一等巡洋艦 | 1921.09.01 一等海防艦 1931.05.30 海防艦 1942.07.01 練習特務艦 1945.07.18 大破着底 (航空攻撃) 1945.11.30 除籍 1948 解体 |
予定艦名 Rivadavia 横須賀港内 |
日露臨 | 日進 Nisshin | 伊 Ansaldo | 1902.05 | 1903.02.09 | 1904.01.07 一等巡洋艦 | 1921.09.01 一等海防艦 1931.05.30 海防艦 1935.04.01 除籍 1936 処分 |
予定艦名 Mariano Moreno |